日曜日, 9月 13, 2009

批判に勝つのは誰か

 講演資料の最後のページに次のように書いている。

おまけ:将来性を予見するための教訓

普及したものを当初批判した人たち
阿川弘之 ・・・ 新幹線
糸川英夫 ・・・ 家庭用VTR
コンピュータのプロやセミプロたち ・・・ Windows

継続した努力で大衆のニーズに応えたものが勝つ。

話題がS25R方式から離れているので、私の講演を聴いた人以外には、このスライドを見るだけでは理解しにくいかもしれない。そこで、私がこのスライドに込めた意図を説明する。

 S25R方式は、批判を受けながらも、発表後5年を経て多くのサイトで採用されるようになった。導入サイト数は1000以上と推定される。S25R方式に対して「こんなものはだめだ」と言っていた人たちは、S25R方式の成功を予見できなかったということである。
 同じように、普及したものの中には当初批判されていたものがあった。
 作家の阿川弘之氏は、「これからはモータリゼーションと航空機の時代で、鉄道は過去の遺物だ」と言って新幹線建設を批判した。後に新幹線が鉄道斜陽論を覆すに至った時、彼は「私が間違っていた」と言った。
 ロケット工学者の糸川英夫氏は、著書の中で「家庭用VTRは普及しないだろう」と言っていた。忙しい人はテレビ番組を録画しておいて後で見ることができるとはいっても、忙しい人はその時間さえないからだと言う。大衆は自分のように忙しくしている人ばかりではないとは考えなかったようである。
 コンピュータのプロやセミプロたちは、Windowsを批判した。私もその一人だった。しかし、コンピュータの大衆化に最も貢献したのはWindowsだということは、今や誰もが認めることであろう。
 これらからわかることは、博識な人や専門家がだめだと言ったものがだめだとは限らないということである。良いかだめかを決めるのは、一部の偉い人ではなく、大衆である。これら普及したものに共通することは、大衆に貢献するために大きな努力が払われてきたことである。一部の偉い人が何と言おうと、継続した努力で大衆のニーズに応えたものが勝つのである。
 私も、スパムの被害を食い止めたいと願う人たちのニーズに応えるために努力を続けてきた。決してS25R方式を広めたかったわけではなく、スパムに困っている人たちを助けたかった。スパムに困っている人たちとのコミュニケーションを大切にし、質問には必ず答えている。シェルスクリプトを使ったこともない人をサポートしたこともある。協力者から情報を集めて公開ホワイトリストを提供している。こうした活動を地道に続けている。だから、一部の人たちの批判にもかかわらず、多くの人たちの支持を集め、S25R方式は広まった。
 私のアイデアは、おそらく1000人以上のメールシステム管理者を助けた。そして、何万人ものメールユーザーをスパムの被害から救った。S25R方式を採用したメールシステム管理者は私に感謝してくれているだろうが、スパムの被害がないのを当たり前と思っているユーザーは、私の功績を知らないかもしれない。私はそれでいいのである。スパムの被害がないのを当たり前にしたことが私の誇りである。
 あなたは、プロに褒められる仕事を目指してはいないだろうか。そうではなく、自分の仕事で大衆を幸せにすることを目指すべきである。料理人について言えば、一部の美食家に褒められる料理ではなく、素人のお客さんを喜ばせる料理を目指すべきである。一部の人の批判にくじけることはない。大衆を幸せにしたら、プロもあなたの仕事を認めざるを得なくなる。その時、あなたは勝者なのである。

0 件のコメント: